2026年8月6日木曜日

機動戦士ガンダム〈ヴュルフェル〉 賽は夢を見ない

## 序章 十五秒

記録映像の長さは、正味十五秒だった。

エミール・シュタイナー技術中尉は、それを四十七回、繰り返して見ていた。

グラナダ、月裏側。フラナガン機関第三研究棟の地下、解析室。壁一面のモニターに映っているのは、サイド6宙域における戦闘記録の再構成データである。青い線が十二本、画面の右から左へ流れていく。コンスコン少将麾下の突撃隊、リック・ドム十二機の航跡だ。

そして、白い点がひとつ。

青い線が消えるのは、順番ですらなかった。三本、二本、四本、一本、二本――ほとんど同時に、ばらばらの順序で、まとめて消えていく。白い点はその間、宙域を大きく移動していない。ただ、そこにいて、腕を伸ばすようにして、周囲の空間を刈り取っている。

十五秒。

シュタイナーはコンソールに肘をつき、両手で顔を覆った。指の隙間から、まだ白い点が見えている。

「四十八回目を見るつもりかね」

背後で声がした。振り向くと、白衣の襟をきちんと立てた小柄な男が立っている。フラナガン博士だった。

シュタイナーは姿勢を正さなかった。「見るたびに、同じ結論が出ます」

「聞かせてもらおうか」

「これは戦闘ではありません。作業です」

博士は答えなかった。答えないことが答えだった。

「連邦のRX-78のパイロット――アムロ・レイ。彼は敵の位置を予測しているのではない。敵が『どこへ行こうと決めたか』を、決めた本人と同時に知っている。だから見越し射撃が外れない。だから十二機が十五秒で消える」

「我々の結論も同じだ」博士は言った。「だからこそ、我々の仕事に意味がある。我々もニュータイプを育てる。アムロ・レイに匹敵する素質者を見つけ、覚醒させ、彼にぶつける」

「何年かかりますか」

「……」

「何年かかりますか、博士」

博士は眼鏡の位置を指で直した。「素質者の発見に平均で八か月。訓練に、我々の想定では最短で一年」

「戦争は、あと何か月続きますか」

沈黙が落ちた。オデッサを失い、ジャブローへの逆侵攻に失敗し、宇宙要塞ソロモンの前面に連邦の大艦隊が集まりはじめている。ジオン公国に残された時間を、この部屋にいる二人はどちらもわかっていた。

「君は」博士は言った。「何を言いたい」

シュタイナーは立ち上がった。二十九歳、階級は技術中尉、専門は認知科学と統計。予知能力の統計的検定という、公国軍の中でもっとも役に立たない分野で三年を過ごした男だった。

「ニュータイプに勝てるのがニュータイプだけなら、我々は負けます。」彼は言った。「一般兵で勝つ方法を考えるべきです」

「不可能だ」

「ええ。人間には不可能です」

シュタイナーは白い点が消えたモニターを、もう一度見た。

「ですから、人間をやめさせます」

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## 第一章 誰も見てはならない数

ニーナ・ヴォルコフは十六歳で、フラナガン機関の被験者名簿ではCランクの素質者だった。Aランクの少女たちが受ける特別待遇はなく、Dランク以下が回される後方勤務も免れ、ただ毎日、地下三階の実験室で数字を当てていた。

「今日は違うことをやります」

シュタイナーはそう言って、実験室に机を二つ運び込んだ。ニーナは椅子に座ったまま、興味のなさそうな目でそれを眺めていた。

「第一試行。この部屋の向こう側に兵士が座っています。彼は一から六までのカードのうち一枚を引き、それを見て、頭の中で念じます。あなたはそれを言い当てる」

「いつもと同じです」

「そう。ウォーミングアップです」

二百試行。ニーナの正答率は七十八パーセントだった。偶然なら十六・七パーセント。彼女は途中で三度あくびをした。

「第二試行」シュタイナーは、机の上に金属の箱を置いた。一辺三十センチ、封印されている。「この中に装置が入っています。装置がカードを選び、その結果を内部の記録紙に打ち出します。誰も見ません。私も、兵士も、この部屋の誰も、あなたが答えるまでその数字を知りません」

ニーナは初めて、少し身を起こした。

「見ていない数字を、どうやって当てるんですか」

「それを知りたいんです」

二百試行。ニーナの正答率は十七・二パーセントだった。

偶然と、統計的に区別がつかなかった。

シュタイナーは記録紙を三度数え直し、それから実験室の壁にもたれて、しばらく天井を見ていた。心臓が速かった。彼はこれまでの人生で、これほど美しい数値を見たことがなかった。

「わたし、失敗しましたか」ニーナが言った。

「いや」シュタイナーは首を振った。「君は今日、この戦争でいちばん重要な実験をした」

「意味がわかりません」

「意味は――」彼は言葉を選んだ。「人の心には、読まれるための形がある。決断には形があるんだ。誰かが『三』を選ぶとき、その人の中には三を選ぶまでの傾き、迷い、理由がある。君はそれを読む。読める。だが機械の中には、形がない。理由のない数字には、掴む取っ手がないんだ」

ニーナは長い間黙っていた。それから、ぽつりと言った。

「あの箱、気持ちが悪かったです」

「気持ちが悪い?」

「何もないのに、そこにある。壁みたいに」

シュタイナーはその言葉を、生涯忘れなかった。

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問題は、その夜に起きた。

彼は念のために第三試行を組んだ。同じ封印された箱、同じ手順。ただし中の装置を、演算式によって数列を生成するもの――擬似乱数発生器に取り替えた。当時の携帯用計算機に標準的に組み込まれていた、線形合同法の回路である。

正答率、三十一・四パーセント。

偶然の二倍近い。有意だった。

シュタイナーは深夜の実験室で、その数字を三回計算し直した。そして理解した。

演算式による数列は、乱れているように見えるだけだ。初期値と手続きが決まっていれば、その先に出る数字は、出る前から決まっている。決まっているということは――この宇宙のどこかに、それが「ある」ということだ。

形がある。取っ手がある。

ニーナは、それを掴んでいた。

「擬似では駄目だ」シュタイナーはノートに書いた。「原理的に予測不能な乱数が必要だ。神が決めていない数字が必要だ」

彼が最終的に採用したのは、二種類の物理現象だった。ひとつは半導体接合の熱雑音。もうひとつは、微量のアメリシウム線源からのアルファ崩壊の時間間隔である。放射性原子核がいつ崩壊するかは、原理的に決まっていない。宇宙が決めていない。誰も、どんな知性も、それを崩壊の前に知ることはできない。

そして最後に、シュタイナーはもうひとつの規則を書き加えた。

「生成された乱数は、実行されるまで、いかなる人間も観測してはならない」

なぜなら、もし誰かが数字を見てしまえば、その瞬間に数字は人間の心の中に入る。人間の心の中にあるものは、読まれる。

管制官も駄目だ。通信で母艦に送ってはならない。記録は本人にも読めない封印記録装置に落とし、戦闘終了後に開封する。

そしてパイロット自身も、自分の機体が次にどう動くかを、知ってはならない。

シュタイナーはペンを置いて、自分の書いたものを見た。

彼は、パイロットを機体の操縦者から、機体の同乗者へ格下げする設計図を書いていた。

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## 第二章 賽〈ヴュルフェル〉

「つまり君は」

キシリア・ザビ少将は、報告書の三ページ目を指で押さえていた。グラナダ司令部の一室。マスクの奥から、感情のない声が出てくる。

「敵弾に当たらないためだけの兵器を、作りたいと言うのか」

「はい」

「理由を」

シュタイナーは、あらかじめ用意していた説明をやめた。この女に対して整えた言葉は逆効果だと、部屋に入った瞬間に直感した。

「閣下。RX-78は試作機です」彼は言った。「V作戦の技術情報から確認できることが二つあります。第一に、あの機体のビーム・ライフルはエネルギーCAP方式で、再充填には専用の設備が必要です。第二に、その設備を積んでいる艦は、現在この宇宙にただ一隻です」

「ペガサス級」

「木馬、と呼ばれている艦です。連邦の他のどの艦にも、あの機体を再武装させる能力はありません。整備治具すらない」

キシリアはマスクを動かさなかった。

「あの白い機体は、無敵です」シュタイナーは続けた。「ただし、燃料と弾がある間だけ、無敵です。ニュータイプは未来を読みますが、燃料タンクや弾倉の中身を増やすことはできません」

「木馬を沈めればよい、という話は、これまで七回上申されている」キシリアは言った。「そのうち六回は、白い機体に阻止された。残る一回は艦の火力に阻止された」

「ですから、白い機体を、木馬から引き離します」

シュタイナーは図面を広げた。MS-14。開発が完了しつつあった新型モビルスーツ、ゲルググ。肩部と脚部に、姿勢変更用のスラスターが計十六基。リック・ドムを超える機動性を誇る。

「この機体を改造します。十六基の姿勢制御スラスターを、乱数発生器の出力に直結します。どのスラスターを、いつ、どれだけの時間、どの推力で吹かすか――すべてを、原理的に予測不能な物理乱数が決めます。パイロットの操縦系統からは切り離されています」

「パイロットはどうなる」

「振り回されます」

「操縦できないのか」

「主推進と武装は操縦できます。姿勢はできません。乱数の方が優先されます」

キシリアは初めて、わずかに顔を上げた。

「アムロ・レイは、パイロットの決断を読んで、その先に弾を置きます」シュタイナーは言った。「乱数機動中のゲルググは、パイロットが行こうと決めた場所へは行きません。彼が読むのは、パイロットの意図です。そして機体は意図と無関係に動きます。彼の予測は外れます。――いえ、閣下、もっと悪いことが起きます」

「悪いこと?」

「彼には情報が『入る』のです。パイロットの恐怖、意図、次の行動。それらはすべて正しく彼に届く。そして機体の運動が、そのすべてを裏切る。読めないより、間違ったものが読めるほうが、有害です」

沈黙。

そして、マスクの奥から、笑い声のような息が漏れた。

「毒を飲ませるのか」

「はい」

「射撃はどうする。振り回されている機体で、当たるのか」

「当たりません」シュタイナーは、この質問を待っていた。「最初から期待していません。この機体の任務は、当てることではありません。逃げ回ることです。三機で白い機体を引き付け、十分間、生き延びる。それだけです」

「囮に、新型を三機」

「はい」

「パイロットは死ぬな」

「かなりの確率で死にます」

キシリアは報告書を閉じた。マスクが、ゆっくりとシュタイナーの方を向く。

「シュタイナー技術中尉。君の計画には、我が機関の理念に対する侮辱が含まれている。わかっているか」

「はい」

「言ってみろ」

「ニュータイプは人類の革新である、という理念です」シュタイナーは言った。「私の計画は、こう主張しています。革新した人類も、サイコロには勝てない」

長い間があった。

「予算を出す」キシリアは言った。「機体は三機。試験用に一機。優先度は最上位に置く。ただし条件がある」

「なんでしょう」

「白い機体のパイロットを、殺すな」キシリアは立ち上がった。「補給を絶たれれば、彼はいずれ漂流する。生かして回収せよ。あれは、この機関が十年かけて手に入れられなかった標本だ」

シュタイナーは、その言葉に返事をするのに、一秒かかった。

「……了解しました」

「計画名は」

「作戦名は、まだ」

「では、私が付ける」キシリアはマスクの下で言った。「〈ヴュルフェル〉。サイコロだ」

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## 第三章 三人の同乗者

試験の第一日目に、志願者は十二名いた。

第四日目に、七名になった。

十日目に、二名が病院に送られ、そのうち一名――ハインツ・レルヒ曹長――は戻ってこなかった。頸椎の骨折だった。予測できない方向から、予測できないタイミングで、六・八Gが首にかかった。人間の首は、予期していない加速に耐えられるように作られていない。

シュタイナーは、その報告書を自分の手で書いた。

「これは技術的な問題です」彼は残った志願者を集めて言った。「隠しません。皆さんが乗る機体は、皆さんを殺そうとします。敵よりも先に」

「知ってる」

答えたのは、オットー・ケーニッヒ大尉だった。三十九歳。開発試験部隊での飛行時間(ほとんどは宇宙機で、MSではない)は公国軍で三番目に長い。ルウム戦役の生き残りで、以来ほとんど笑わない男だと言われていた。

「中尉。ひとつ聞かせろ」ケーニッヒは腕を組んだ。「軍人が、当たらない弾を撃つ機体のために訓練するというのは、どういう気分だと思う」

「わかりません」

「俺もわからん。だから乗る」ケーニッヒは言った。「二十年、機体の癖を読んで生きてきた。読めない機体があるなら、一度乗ってみたい」

ライナー・ブルーメ少尉は二十一歳、サイド3のコロニー内アクロバット飛行の元選手だった。彼は最初の遠心機試験で、記録上いちばん長く意識を保った。

「先輩たち、みんな青い顔してますね」彼は初日にそう言って、二日目に自分も青くなった。

アニカ・ロート曹長は二十六歳で、口を開かなかった。彼女の経歴書には、機動兵器試験部隊の被験者として二年、と書かれていた。前庭機能の異常な耐性――医官は「三半規管が壊れているのではなく、脳が三半規管の報告を無視することを学習している」と表現した。

三人。それが全員だった。

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訓練計画を作るために、シュタイナーは月面のアーカイブ倉庫に三日こもった。

彼が探していたのは、二百年前の記録だった。二十世紀中期、人類が初めて大気圏の外に人を出したときの訓練資料。ミノフスキー物理学も、慣性制御も、対G流体スーツもなかった時代。あのころの飛行士たちは、剥き出しの生身で、剥き出しの加速に耐えていた。

彼は見つけた。

回転椅子。被験者を座らせ、不規則に回し、途中で急に止め、方向を変える。前庭系を意図的に混乱させ、その混乱に慣れさせる装置。二十世紀の飛行士候補たちが、これに座って延々と吐いていた記録が残っていた。

遠心加速機。腕木の先の籠に人を乗せて振り回す。当時の飛行士は十六Gまで経験している。

耐G呼吸法。声帯を閉じ、腹圧をかけ、短く息を吐き、また閉じる。脳への血流を確保する原始的な技術。

そして、慣れ。ただ、繰り返し、繰り返し、同じ地獄に入って出る。それだけが方法だった。二百年前も、今も。

「これが全部です」シュタイナーは三人に資料を渡した。「二百年前の宇宙飛行士がやっていたことを、そのままやります。私たちには、新しい方法がありません」

「昔の連中は」ケーニッヒが紙をめくった。「これに耐えて、何をした?」

「地球を回りました。数周して、帰ってきました」

「それだけか」

「はい」

ケーニッヒは、初めて少し笑った。

「じゃあ、俺たちのほうがましだな。俺たちには、撃つべき相手がいる」

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訓練の内容は単純で、残酷だった。

朝、回転椅子。四十分。乱数で回転方向と速度が変わる。ブルーメは最初の一週間、毎回吐いた。ロートは吐かなかったが、椅子から降りたあと三十分間、まっすぐ歩けなかった。

昼、遠心機。ランダム多軸。医官が心拍と眼圧を監視し、網膜の血管が破れる寸前で止める。

夕方、首。ひたすら首の筋肉を鍛える。等尺性の負荷を、あらゆる方向から。三人の首回りは、三週間で平均四センチ太くなった。

夜、実機。シミュレーターではなく、四機目の試験機――「賽」の装置を積んだ実物のゲルググを、月の低軌道で走らせる。

そして装備が加わっていった。

頸部固定装具。ヘルメットと肩を機械的に連結し、首が振れる角度を物理的に制限する。可動域を犠牲にして、頸椎を守る。

マウスピース。歯の破損と、舌の噛み切りを防ぐ。

全身のサポート・スーツ。脊椎に沿って副木のような構造を入れ、腹部を圧迫し、四肢を拘束する。着るのに二十分かかる。

そして、吸引装置。ヘルメット内に吐いた場合、それを気道から吸い取るためのチューブ。

「これがいちばん屈辱的だな」ケーニッヒが装備リストを見て言った。

「これがいちばん多くの命を救います」シュタイナーは言った。「嘔吐で気道を詰まらせて死ぬのは、Gで死ぬより、ずっと簡単です」

出撃前十二時間は絶食。制吐剤は投与するが、効きすぎると意識レベルが落ちるので、量は各人で調整する。

そして「賽」には、ひとつだけパイロットの意志で触れる部分があった。

胸の前の赤いレバー。遮断桿。これを引けば乱数機動は止まり、機体は通常のゲルググに戻る。

「これを引いたら、どうなるか、わかりますか」シュタイナーは三人に聞いた。

「読める機体になる」ロート曹長が、その日初めて口を開いた。

「そうです」

「じゃあ、死ぬ」

「そうです」

ロートは頷いた。それきり、何も言わなかった。

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## 第四章 ルウムの墓場

U.C.0079年12月2日。

サイド6、中立港ロウム。ジオン公国大使館の三等書記官が、暗号化された四行の電文を送った。ペガサス級強襲揚陸艦の出港時刻、推定加速スケジュール、そして予定航路――ルナツーを経て、集結中の連邦艦隊に合流する針路。

その航路は、あるデブリ帯を通過していた。

ルウム戦役の跡である。

八か月前、この宙域で連邦の艦隊が消えた。今もそこには、艦の破片と、崩れたコロニーの外殻と、名前のわからない金属の塊が、何十万個も浮かんでいる。密度は低いが、相対速度がある。艦艇はここを、速度を落として通る。

そしてここは、待ち伏せに使える最後の場所だった。

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マティアス・レーム少佐の別働隊は、十二機だった。

ザクII六機。それぞれザク・バズーカ。リック・ドム六機。それぞれジャイアント・バズ。合計十二の実体弾発射器。

「メガ粒子砲でも、ビームでも、ミサイルでもない」レームは出撃前のブリーフィングでそう言った。「実体弾だ。理由は二つある。第一にミノフスキー粒子の散布下で誘導が要らない。第二に――」

彼は間を置いた。

「第二に、我々は、撃つチャンスを一度しかもらえない。だから、一発の破壊力が大きいものを使う」

接近方法は、シュタイナーの提案だった。彼はモビルスーツの戦術を知らなかったので、単純な物理を提案した。

エンジンを切って、飛ぶ。

デブリ帯の外縁から、四十三分間、慣性だけで航行する。噴射は一切しない。熱源を落とし、機体表面には吸熱塗料を塗る。姿勢制御すら、最小限のコールドガスで済ませる。ミノフスキー粒子が散布された宙域ではレーダーは無効で、探知は目視と赤外に頼る。デブリの間を、金属の塊の速度で流れてくる十二機は、金属の塊と区別がつかない。

「デブリのふりをして、四十三分」レームはそれを聞いたとき、少し黙ってから言った。「その間、我々は何もできんな」

「何も」

「撃たれたら」

「死にます」

「そうか」

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12月4日、〇時四十分。

宙域の外、三百二十キロ。

ゲルググ改三機は、砕けた岩の陰に、静止していた。

「〈賽〉、封印確認」ケーニッヒの声。「乱数線源、正常。記録装置、封印済み。母艦へのテレメトリ、切断済み」

「二番機、同」ブルーメ。声が少し高い。

「三番機、同」ロート。

グラナダ司令部から二万五千キロ離れたこの場所で、三機の機体の中には、それぞれ小さなアメリシウムの粒があった。原子核がいつ壊れるかは、宇宙も知らない。

シュタイナーは、母艦の管制席にいた。

「シュタイナー中尉」ケーニッヒの通信が入った。「ひとつ言い忘れた」

「なんでしょう」

「あんたのサイコロは、うまくできてる」ケーニッヒは言った。「試験のとき、俺は一度も、次の動きを当てられなかった。二十年、機体の癖を読んで飛んできた俺が、だ。あれは気分が悪い。すごく気分が悪い」

「申し訳ありません」

「褒めてる」

通信が切れた。

〇時五十二分。ペガサス級強襲揚陸艦〈ホワイトベース〉が、デブリ帯の縁に姿を現した。

「〈ヴュルフェル〉、始めろ」

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## 第五章 毒

アムロ・レイは、モビルスーツ・デッキで目が覚めた。

正確には、目が覚めたのかどうか、彼にはわからなかった。ガンダムのコクピットに座って、シート・ハーネスを締めたまま、いつのまにか意識が落ちていた。ここ二週間、彼はほとんどベッドで寝ていない。

「アムロ、聞こえる?」

ミライ・ヤシマの声だった。

「はい」

「デブリ帯に入ります。ブライトさんが、一応出ておいてほしいって」

「わかりました」

出撃準備の合図が鳴る。アムロはヘルメットのバイザーを下ろした。手が震えていた。疲れているからだ、と彼は思った。それだけだ。

コンスコン隊のあと、艦の中で、彼を見る目が変わっていた。カツやレツやキッカは前と同じだが、大人たちが違う。感謝されているのか、怖がられているのか、どちらでもあるのか。

十二機を、十五秒で落とした。あのとき彼は、何も考えていなかった。ただ、相手が「そこに来る」ことがわかった。わかったので、そこに撃った。

なぜわかるのか、彼は誰にも説明できなかった。説明できないものを、人は信じない。あるいは、信じすぎる。

「熱源三!、前方上方!、距離二百六十!」

セイラ・マスの声が鋭くなった。

「モビルスーツ、三機です!機種不明――新型!?」

「アムロ!出られるか?」ブライト・ノアの声。

「行きます」

RX-78-2ガンダムがカタパルトを離れたとき、アムロはもう「感じて」いた。

三つ。三つの意識。

ひとつは古い。硬い。四十年近く生きてきた種類の意志。恐れていない。いや、恐れているが、その恐れの扱い方を知っている。

ひとつは若い。震えている。必死に何かに堪えている。

ひとつは――静かだ。異様に静かだ。まるで水の中にいるように。

「囮だ」アムロはつぶやいた。「三機だけで来るわけがない」

だが、彼には見えていた。三機は本当に三機で、そのうしろに艦隊はない。

「アムロ、深追いするなよ」ブライトの声。「デブリの陰に別の敵がいるかもしれない」

「わかってます」

彼はビーム・ライフルを構えた。距離二百二十キロ。まだ遠い。だが、彼にとって距離は、他の人間にとっての距離とは違っていた。近づいてくる三機の「これから」が、もう頭の中に流れ込んでくる。

先頭の機体――古い意志の男が、左に切って上を取ろうとしている。

わかる。

アムロは、その男が到達する点に、ビームを置いた。

外れた。

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ケーニッヒ大尉の視界は、白と赤になった。

「賽」が作動した最初の〇・四秒で、右肩の第二スラスターと左脚の第四スラスターが同時に点火した。乱数はその二基を選び、〇・三一秒の燃焼と、推力段階四を指定した。

機体は、ケーニッヒが左に切ろうと入力したのとほぼ真横――下方右へ、跳ねた。

首の固定装具が、頸椎を守るために働いた。それでも彼の脳は、頭蓋の中で右に押しつけられた。視野の左側が黒くなり、耳の奥で高い音が鳴った。

そのすぐ横を、ビームが通過した。

「――ぐ、っ」

耐G呼吸。声帯を閉じる。腹圧。短く吐く。閉じる。

次の点火まで〇・一一秒。今度は左肩三基が同時。機体は上方へ、ほとんど直角に折れた。九・二G。〇・一八秒。

ケーニッヒの体は、ハーネスに食い込んだ。肩の骨が鳴った音を、彼は骨伝導で聞いた。

彼は自分がどこを向いているのか、もうわからなかった。星が、洗濯機の中の洗剤のように回っていた。

だが、彼は生きていた。

そして視界のどこかに、ビームの残光が、彼が「いたはずの場所」を貫いているのを見た。

「――当たらねえ」彼は喘いだ。「中尉。あんたの言うとおりだ。――当たらねえぞ!」

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アムロは二発目を外した。

三発目も外した。

四発目は、掠りもしなかった。

「なんだ」

彼の声が、ヘルメットの中で自分に返ってきた。

わかっているのだ。目の前の機体――古い意志の男は、今、左上へ抜けようと決めた。決めたのが、はっきりとわかる。恐怖の質も、判断の速さも、そこに至るまでの思考の階段も、全部見える。

だから、そこに撃った。

機体は、真下に落ちた。

アムロは、自分の視界が一瞬ずれるのを感じた。

そんなことは、ありえない。人は、自分が行こうと決めた方向に行く。それが人間だ。彼はこれまでの半年で、それだけを頼りに生きてきた。相手の心を見て、そこに撃つ。それは彼にとって、地面に足がつくのと同じくらい、確かなことだった。

「なんで――」

二番機が来た。若い、震えている意志。

その若者は今、右にロールしながら距離を詰めようとしている。怖がっている。とても怖がっている。「早く終わってくれ」と思っている。

アムロはその心を、正確に読んだ。

そして機体は、若者の意志を完全に無視して、左後方へ吹っ飛んだ。

アムロの後頭部で、何かが鈍く光った。

吐き気。

これは、酔いだ、と彼は思った。彼は自分の感覚に、初めて裏切られていた。心が見えている。見えているものと、目に見えているものが、一致しない。二つの世界が重なって、擦れて、ずれる。

コンスコンの十二機は、彼の中で一枚の絵だった。全員が、行く場所を決めていて、彼はそれを読んで、絵の上に線を引いた。

この三機は、絵にならない。

読める。読めるのに、意味がない。読んだ情報が全部、嘘になって返ってくる。

「――やめろ」

アムロは、自分でも意味のわからないことを口に出していた。

「やめろ!そんな動き方は――」

彼は撃った。撃った。撃った。

ビーム・ライフルのエネルギー残量表示が、視界の隅で下がっていくのを、彼は見ていなかった。

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「アムロ!距離が開いてるぞ!戻れ!」

ブライトの声は、届いていた。

「アムロが離れすぎです」セイラが言った。

「アムロ!応答して!――アムロ!」

〈ホワイトベース〉のブリッジで、ブライト・ノアは自分の掌が汗で濡れていることに気づいた。

いやな感じがした。

「カイ、セイラ、コア・ブースターで出ろ。艦の周りを固めるんだ」

「ガンダムの援護に行かなくていいんですか」カイ・シデンの声。

「行ってどうする。あの新型に当てられるのは、あいつだけだ」

そう言った瞬間、ブライトは自分の言葉の中にある罠を見た。

あいつだけだ。

だから、あいつが引き離されれば――

「艦長!」オペレーターが叫んだ。「デブリ!前方のデブリの動きが、おかしい――」

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## 第六章 冷たい接近

四十三分間、レーム少佐は自分の呼吸の音だけを聞いていた。

彼の乗るリック・ドムは、噴射を切っている。速度も方向も、四十三分前に決めたものから変わらない。彼にできることは、何もない。回避も、加速も、選択できない。彼はただの物体として、白い艦に向かって落ちていた。

計器の中で、距離だけが減っていく。

八十キロ。

四十キロ。

十二キロ。

「――見えた!」

デブリの向こうに、白い艦体があった。ペガサス級。想像していたより小さい。

「レーム隊、聞け」彼は初めて口を開いた。「四十三分、よく耐えた」

「作戦開始まで、あと二十二秒」

「バズーカ、安全装置解除」

「ザク隊は艦橋と対空砲座。ドム隊は艦底部、推進区画。全弾撃ち込め。一発も持って帰るな」

「かかれ!」

十二基の噴射炎が、同時に点いた。

〈ホワイトベース〉の対空砲が反応したのは、その一・八秒後だった。

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強襲揚陸艦は、砲戦を想定して作られていない。〈ホワイトベース〉の装甲は、ミサイルと機銃と、モビルスーツの携行火器の直撃を、一定数まで耐えるように設計されている。

十二発の大口径実体弾を、同時に受けることは、設計に含まれていなかった。

最初の三発が、右舷の対空砲座を吹き飛ばした。

次の三発が、艦橋の右側面に入った。ブライト・ノアは、隔壁が内側に膨らむのを見た。そのあと、彼は何も見なかった。

残りの六発は、艦底部の推進区画に吸い込まれた。

〈ホワイトベース〉は、爆発しなかった。艦はゆっくりと、腹の下から白い霧を吐き出しはじめた。推進剤だった。それから内部で二度、大きな振動がおきた。

艦は姿勢を失い、ゆっくりと、傾きながら、デブリ帯の中へ流れていった。

「――第二射!」レームが叫んだ。「まだ浮いてる!撃て!」

コア・ブースター二機が飛び込んできた。カイ・シデンとセイラ・マスは、ザク二機を落とした。落としたあとで、自分たちの母艦が、もう艦の形をしていないことに気づいた。

「セイラ! ホワイトベースが――!」

「見ないで!」セイラは叫んだ。「カイ!まだ敵がいる!」

彼女の声は、二百六十キロ離れた場所には届かなかった。

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## 第七章 漂流

アムロが「感じた」のは、ビーム・ライフルの四十二発目を外した直後だった。既にエネルギーパックを二回交換していた。

背中を、殴られたような感覚だった。

「――え」

彼は、宙で止まった。

〈ホワイトベース〉の方向。二百六十キロ。何も見えない。デブリと、星と、黒。

だが、彼は「消えた」のを感じた。

たくさんの、知っている光が、いっぺんに消えた。

「ブライト、さん?」

返事はなかった。

「ブライトさん!ミライさん!――フラウ!」

「アムロ、聞こえる?」ノイズの中から、セイラの声がした。声が、震えていない。震えないようにしていた。「戻ってきて。艦が――」

そこで通信が切れた。

アムロはスロットルを最大に叩き込んだ。

ガンダムのバックパックが、残っていた推進剤を吐き出した。二百六十キロ。加速して、減速して、たどり着くには――

彼は計器を見た。

見て、初めて、自分が何をしていたかを理解した。

推進剤残量、十八パーセント。

ビーム・ライフル、エネルギー残量ゼロ。予備エネルギーパックゼロ。

六十ミリバルカン、残弾ゼロ。

彼は、十九分間、三機の敵を追いかけて、撃ち続けていた。一発も当たらないまま。

「――そんな」

そのとき、彼の背後で、若い意志が動いた。

ライナー・ブルーメ少尉のゲルググは、「賽」の累積作動時間を残り四十一秒まで使い果たしていた。彼はもう、自分の体の輪郭がわからなかった。三半規管はとうに壊れ、右目の視野は網膜出血で赤く濁り、口の中は血の味だった。彼が考えていたのは、ひとつだけだった。

十分、生きろ。

彼は朦朧としながらも主推進を吹かして、空戦機動を続けた。当たらないとわかっているが、ライフルをガンダムに向けた。 「――十分、以上、だ」彼は笑おうとした。「中尉。おれ、じゅっぷん、以上――」 それが、彼の最後の言葉になった。 アムロは、ビーム・サーベルを抜いて、振り返って突き出した。 アムロが理解したのは、唯一の解だった。乱数で動く機体に、見越し射撃は当たらない。だが、零距離なら、動きは関係ない。 接触距離。 ブルーメの主推進の操縦と、乱数の気まぐれによりガンダムに近づいたゲルググの胸部を、サーベルが貫いた。乱数が次の姿勢制御スラスターを選ぶまでに、〇・〇七秒足りなかった。 「――ブルーメ!」ケーニッヒの声が、無線に響いた。 アムロは、ガンダムの向きを変え、二百六十キロ先の、何も見えない方向へ、加速した。 十八パーセントの推進剤で。 --- ロート曹長の「賽」が停止したのは、その二十四秒後だった。 乱数生成が停止し、姿勢制御が彼女の手に戻った。 彼女は一瞬、自分の機体が「素直に」動くことに、めまいを覚えた。 そして理解した。 読める機体になった。 「三番機、〈賽〉停止」彼女は初めて、無線に長い言葉を送った。「大尉。わたし、読まれます」 「離脱しろ、ロート!」 「はい」 彼女は反転した。反転した瞬間に、その先へ、何かが来ることを知った。彼女には見えなかったが、わかった。行こうと決めた場所に、死が置かれている。あの白い機体は、二百六十キロ先の母艦へ向かいながら、後方に注意を残していた。 だが、来たのはビームではなかった。 ガンダムは、撃たなかった。撃つものが、もう何もなかった。 「――大尉」ロートは言った。「あれが、撃ってきません」 ケーニッヒの機体は、そのとき、宙でほぼ止まっていた。姿勢制御スラスターだけがランダムに作動して機体の向きを細かく変えていた。 彼の「賽」は、残り十九秒だった。彼は右目が見えず、首が動かず、口の中を切っていた。左手の指が三本、感覚を失っていた。三十九歳の体が、二十年分の飛行時間ぜんぶを、この十九分で使い切っていた。 彼は、遠ざかっていく白い機体を、見た。 必死に加速している。母艦の方へ。 もう、そこには何もないはずだが。 「――終わったぞ」ケーニッヒは言った。「ロート。終わりだ」 「はい」 「……作戦は、成功だ」 「はい」 「なんで俺は」ケーニッヒは、血の味のする口で言った。「こんなに、気分が悪いんだろうな」 --- ガンダムは、四分後に推進剤を使い切った。 デブリ帯の中で、白い機体は、等速直線運動を続けた。ホワイトベースには、届かなかった。届いたとしても、そこには再充填設備も、推進剤も、整備治具も、もうなかった。 コア・ブースター二機は、燃料が尽きるまで戦った。 ガンダムのコア・ファイターをアムロはもはや分離しようとしなかった。 回収に来たジオンの作業艇の乗員たちは、あとでこう証言している。コクピットの中の少年は、装備を外さず、シートに座ったまま、ずっと同じ方向を見ていた。抵抗はしなかった。ハッチが開けられたとき、彼が言ったのはひとことだけだった。 「……ホワイトベースは?」 誰も答えなかった。 --- ## 終章 賽は夢を見ない U.C.0079年12月11日。グラナダ、フラナガン機関。 「作戦〈ヴュルフェル〉、成功」 キシリア・ザビの前で、報告を読んだのはシュタイナーではなかった。作戦部の中佐だった。シュタイナーは、部屋の後ろの席に座らされていた。 「ペガサス級強襲揚陸艦一隻、撃沈。RX-78-2、無傷で捕獲。パイロット、アムロ・レイ、生存にて確保。我が方の損失、ザクII二機、MS-14改一機。戦死者、三名――」 シュタイナーは、その「三名」の中に自分の書いた名前があるのを知っていた。ライナー・ブルーメ少尉、二十一歳。 オットー・ケーニッヒ大尉は、生きていた。右目の視力は戻らず、頸椎に三か所の圧迫骨折があり、二度と機体には乗れないと診断されていた。 アニカ・ロート曹長も生きていた。彼女は退院の日、シュタイナーに一度だけ会いに来て、こう言った。 「中尉。装置が止まったとき、わたし、自分の機体がすごく怖かったです」 「なぜ」 「読まれるのが、あんなに怖いなんて、知らなかった」 --- その日の午後、シュタイナーは地下四階に降りた。 新しく作られた区画だった。壁は白く、まだ塗料の匂いがした。廊下の突き当たりに観察室があり、厚いガラスの向こうに、少年が座っていた。 十六歳か、十七歳。細い。連邦の飛行服ではなく、機関の被験者用の灰色の服を着せられていた。手首に計測用のバンドが巻かれている。頭部には十二個の電極。 少年は、何もしていなかった。ただ、机の上の一点を見ていた。 「Sランクだ」隣でフラナガン博士が言った。声が、抑えきれずに震えていた。「シュタイナー。Sランクどころではない。この子の測定値は、我々のスケールの外側にある。この子ひとりで、機関の十年が――」 シュタイナーは聞いていなかった。 ガラスの向こうで、少年が顔を上げた。 そして、まっすぐに、シュタイナーを見た。 観察室のガラスは、内側からは鏡になっている。向こうから、こちらは見えない。設計上、絶対に見えない。 少年は、シュタイナーを見ていた。 「……あなたが」 音は、通っていなかった。マイクは切られていた。だがシュタイナーは、少年の口の動きを読んだ。読んでしまった。 「あなたが、あれを作ったんですか」 シュタイナーは、答えなかった。答えられなかった。 「なんで」少年は言った。「なんで、あんなものを」 なんで。 シュタイナーは、その質問に、数日間ずっと自分で答えを探していた。 彼が言えたはずのことは、たくさんあった。戦争だから。祖国が負けるから。一般兵にも戦う手段が必要だったから。あなたが十五秒で十二人を殺したから。 だが、ガラスの前に立って、彼が思い出したのは、地下三階の実験室で、ニーナ・ヴォルコフが言ったことだった。 「あの箱、気持ちが悪かったです。何もないのに、そこにある。壁みたいに」 シュタイナーは、この戦争にひとつの証明を持ち込んだ。人間の心は読める。心のないものは読めない。原子核がいつ壊れるかは、誰も知らない。宇宙も知らない。だから、それは戦争では無敵だ。 彼は、MSを無敵にするために、MSパイロットの心を遮断した。そしてケーニッヒの首を折り、ブルーメを殺し、ロートに「読まれる恐怖」を教えた。
彼はガラスの向こうの少年に勝った。 勝って、少年を、この部屋に届けた。人類の革新を測定し、切り分け、複製しようとする人々の手に。 「私は」シュタイナーは、聞こえないと知りながら、口を動かした。「あなたに勝つために、サイコロを作りました」 少年は、じっと見ていた。 「サイコロは」シュタイナーは言った。「夢を見ません」 彼は敬礼をしなかった。頭も下げなかった。ただガラスから離れ、廊下を歩いて、白い壁の匂いの中を出ていった。 背中で、フラナガン博士が何かを言っていた。少年の素質値の数字だった。 --- 十三日後、宇宙要塞ソロモンが陥落する。 ジオン公国の十二機のリック・ドムと二機のザクIIと一機のゲルググ改と、連邦の一隻の白い艦の交換は、戦局の秤をわずかも傾けなかった。ア・バオア・クーへ向かう連邦の艦隊は、予定より二日遅れただけで、同じ方向に進み続けた。 戦後、この作戦の記録は連邦軍の調査団によって発見され、報告書に、数行だけ記載された。 ジオン公国軍は、ニュータイプ能力に対する非対称的対抗策として、物理乱数による予測不能機動を実装した機体を運用した。当該機への射撃命中率は0%であった。作戦は目的を達成した。搭乗者三名のうち一名が戦死、一名が永久的な身体障害を負った。同種の機体は以後製造されていない。理由は、乗員の消耗率が受容不能と判断されたためである。 そして最後の一行に、こう書かれていた。 計画立案者エミール・シュタイナー技術中尉の戦後の所在は、不明である。

2026年8月3日月曜日

長崎駅でもドコモ5Gパケ詰まり

東京だけでなく地方都市でもドコモはパケ詰まりをする。以前大分市で5Gのアンテナピクトは立っているが、パケ詰まりで使い物にならなかった経験をした。長崎駅でも5Gのアンテナピクトは立っているものの、パケ詰まりで5Gがまともに使えない。しかたないので、4Gに設定してやっと通信できるようになった。長崎駅のパケ詰まりはユーザーが多いせいで、人が少ないグラバー園では5Gは快適に使えた。とは言え、グラバー園で5Gが使えても意味はない(グラバー園で動画をみる用事はない)。ドコモの5Gが導入されて数年になるが、未だに5Gでよかったと思えた状況が一度もない。

宿泊はANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒルである。ここのWiFiがとんでもなく速い。google speed testで下り120Mbps、上り120Mbpsがコンスタントに出る。ホテルのWiFiで100Mbpsを超えたのは初めてだ。世界中のいろんなホテルでWiFiを使ったがこんなに速いのは初めてだ。自宅のVDSLの80Mbpsより速い。このホテルでずっと仕事をしたい。

2026年8月2日日曜日

素晴らしい為替介入ではあったが円安基調は変えられない

日本政府は米国と協力して効果的な協調介入を実現した。大勝利と言える。しかし5月1日の本ブログで述べたように、これは戦術レベルの勝利であり、作戦レベルや戦略レベルでは負けている。勝負に勝って試合に負けたというやつだ。

明日以降、追加介入をすればドル円は150円まで円高に持っていけるかもしれない。150円の水準が維持できれば良いのだが、そう甘くはない。金利差とファンダメンタルズが変わらない限り介入は時間を買うだけである。150円が維持できずに再び円安に戻るシナリオの方が確率が高い。

2026年8月1日土曜日

日米協調介入の可能性

日本時間31日午後6時前、160円10銭台から158円台へ円が急騰し、日本時間午後10時過ぎにも160円台から159円近辺へ1円急騰した。ロイター通信の報道によれば、アメリカ財務省がニューヨーク連邦準備銀行を通じて複数の銀行に「今後の措置に備えるように」と介入の可能性を通知したとのこと。30日の日本の介入は6兆円規模との推計が出ており、三村財務官は31日朝「米当局からは単なる精神的支援を超える支援を得ていると認識している」と述べた。そして日本時間今朝5時過ぎ、159円台前半から157円20銭付近へ1時間弱で2円近く急伸した。

7月31日、キャンプデービッドで開かれた閣議の最中、ベッセント財務長官の手元のメモに「日本円を50億〜100億ドル購入する」との記述があることが、ロイター通信の撮影した写真から判明した。「意図的に見せたのか」が論点で、2019年にボルトン大統領補佐官が「コロンビアへ5,000人」と書いたメモ帳をわざと(あるいは不注意で)カメラに晒した事件と同型だ。ただし今回は写真だけでなく、銀行への「備えよ」通知という実務上の一歩まで行っているので、実際にお金を使う可能性はある。

100億ドルという金額は日本が介入に使った6兆円にくらべると1/4であり、金額は少ない。しかし、アメリカが協力したという事実は大きく、それだけで6兆円以上の効果がある。

もしかするとドル円相場は150円割れを示現するかもしれない。私は日本の介入に備えて156円から始まるドル買い下がり指値を1か月前から入れていたが、今朝その指値を150円にずらした。そして買い下がりの指値を143円まで段階的に加えた。

今回の介入にだらだら時間をかけるメリットはあまりなく、速攻で勝負をかけた方がメリットは大きい。となると、月曜日の早朝に動く可能性が高い。これは面白い。もしそうなれば、3月からずっと「円高に備えよ」と言っていたアナリストは面目躍如ということになる。バカにされながらも自説を貫いたのだから立派だ。

2026年7月31日金曜日

マイナンバー利用により役所の手続きがオンラインでできてびっくり

マイナンバーカードを利用することにより、コンビニで住民票や戸籍謄本が取れたり、自宅で確定申告ができることは知っていた。これら以外の諸々の手続きは役所へ行って書類を書くことになる。ところが、この状況は徐々に改善している。去年まで紙で手続きをしていたものが、今年はオンラインでできるようになっていた。なんと便利になったものか。

マイナンバーカードを導入するとき、バカな役人が間違った説明をしたものだから、一部の国民にマイナンバーが嫌われた。最初から「役所の手続きが便利になります」「役所が楽になれば、人件費を節約できて税金が減ります」と正しく説明すればよかった。ただのIDカードだったのに。

マイナンバーカードに反対した一部の国民のうち、正しく理解して反対していた者はひどく少なかった。反対する理由がある人とは、裏金がある人、脱税をしている人、犯罪者でマネーロンダリングが必要な人だ。これらの人がマイナンバーカードに反対するのは理解できる。それ以外の反対していた人は単に頭が悪い人だ。マイナンバーがあると、金融資産情報が抜かれると思い込んでいた。お前のような金を持っていない人間の金融資産情報なんて何の価値もないことがわからない。こういう情弱に限って、ネットのアンケートや掲示板や買い物サイトに考えなしに個人情報を書き込んでいるのが笑える。

2026年7月30日木曜日

短期の為替の方向を言い当てるのは難しい

私が一目置いているアナリストが3月から「円高に備えよ」と言い続けている。しかし、ずっと円安が進み続けている。普通に見たら自分の意見に固執して予想を外し続けているダメ相場師に見える。このアナリストを擁護すると、彼は短期のFX取引をする人に向けて発信している。レバレッジを大きくかけて投機をしている人が対象だ。だから、円安に期待し過ぎてドル買いポジションを大きく取りすぎるなという警鐘なのだ。しかし普通の人の感覚では、これまでも円安が続いたし、これからも円安が続きそうなのに、バカなことを言っている人に見える。彼は会員制の投資講座を開いているが、これでは退会する人が多そうだ。

米国がこけて米金利が下がり、円キャリートレードが巻き戻るとドル円相場は135円くらいになることが期待される。しかしそういう状況になる可能性は低いのが現実だ。

そして長期でみれば、円安は進む。メカニズムはシンプルだ。日本人は過去に決めたことを変えられない性質を持つ。教育環境や労働環境や法律が現状に合わなくなってきても、それを変えるのに他の国の何倍もの期間を必要とする。そのために経済の発展は他の国に遅れを取る。つまり日本円は今後もずっと安くなり続ける。

長期投資をするのなら、円を売って外貨を買っておくのがよい。レバレッジをかけなければリスクはそう大きくはない。割高なもの(円)を売って、割安なもの(外貨)を買う。これも一種の裁定取引(サヤ取り)だ。

2026年7月29日水曜日

トランプはボケたふりをしてインサイダー取引をしている疑惑

トランプが言うことをころころ変える理由がインサイダー取引のためだという疑惑が米国で持ち上がっている。正確にはインサイダー取引ではないが、トランプが何かを言うと株式や商品の価格が変わるので、意味的には同じだ。トランプが記者会見ではなくSNSで発信していることもその疑惑を裏付けている。実際、彼の家族企業には数兆円の利益が積みあがっている。

やり方は簡単だ。アメリカーイラン戦争が治まるような発言をすれば、原油価格は下がり、株価は上がり、暗号資産も上がる。発言の前に儲かるポジションを取っておけばよい。そして利食いをしたら、こんどは戦争をエスカレーションさせる発言をする。次のポジションをとるためだ。そしてまた休戦発言をする。これは笑いが止まらないだろうな。