そもそも「標準値」とは、多数の健康な人のデータから導き出された数値であり、厳密ではないが平均値に近いものだ。ここで冷静に考えてみてほしい。日本人の平均身長が172cmだからといって、それより背が高い人や低い人を、無理やり172cmに縮めたり伸ばしたりする必要があるだろうか。そのような行為がナンセンスであることは誰の目にも明らかだ。身長がその人の個性であるのと同様に、血圧やコレステロール値もまた、個々の身体の「個性」なのである。
具体例を挙げれば、コレステロール値が高い人は、高い状態で健康が維持できるように身体がバランスをとっている可能性がある。免疫機能や脳の働きを維持するためにあえてコレステロール値を高く保っているのにもかかわらず、これを無理に下げれば、当然ながら身体機能は低下する。近年、医学論文でこうした指摘が散見されるようになってきた。あと20年もすれば、個体差を無視して他人の数値に合わせようとする作業は、愚かな行為として認識され、医学界から消滅するだろう。
私がこのことに気づいたのは経済学のおかげだ。多くの経済理論が実体経済をうまく制御できないのはなぜか。それは、市場参加者の心理という統計値では表現できない不確定要素が実体経済系に内在しているからだ。常に不規則に変動する要素(人の心理)を多数内包する実体経済は「複雑系」となる。複雑系の振る舞いは予測不可能であり、どこで安定するか計算できない。人体もこれと同じである。人体は多数の構成要素から成り、その組み合わせは無限に近いバリエーションを持つ「複雑系」だ。したがって、それらすべてを単一の基準で同一視し、画一的な数値に管理しようとすること自体が不合理なのである。
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