2024年9月29日日曜日

階段登りをすると認知症になる可能性が1.55倍に上昇するという研究があるが、統計の相関は因果関係ではないことに注意

認知症の予防には運動が良いという話をよく聞くが、それに関しての研究結果が2003年に発表された。もちろんまだ研究の初期段階であり実験方法には改良の余地があるので、この結果がファイナルアンサーではない。

論文によると、以下に示すように認知症の可能性を減じる運動と可能性を増やす運動があるとのこと。

[認知症の可能性を減じる運動]
  • 社交ダンス 0.24倍
  • 水泳 0.71倍
[認知症の可能性を増やす運動]
  • 階段登り 1.55倍
  • 自転車 2.09倍
この論文は解説記事の中で紹介されている。解説記事の元になった書籍は浜松医科大学名誉教授の高田明和氏の著書だ。その書籍の中でこの論文の内容に言及している。解説記事では階段登りのことを登山と記載していた。論文中では"climbing stairs"と記述しているので登山ではなく階段登りと記載すべきなのだが、解説記事ではどういう意図で登山という言葉に訳したのかは謎だ。登山と書いたのが高田氏なのか解説記事の著者なのかも謎だ。

この研究の被験者は469人と少なく、人種もばらつきがあるので実験の信頼性はそれほど高くない。それを承知した上での軽めの結論だが、運動強度が強くても弱くても認知症を予防する働きには影響しないことがわかった。認知症を予防するために必要なのは知的活動の方だ。身体を動かすこと自体には認知症予防効果はないが、身体を動かすときに付随する知的活動が認知症を予防しているということのようだ。つまり激しい運動をしても認知症予防には役立たない。全く運動をしなくても知的活動をすれば認知症の予防になる。

階段登りや自転車が認知症になる可能性を増やすことは予想外の結果なので理由を知りたいところだが、論文では理由について何も言及していない。それでは納得できないということだろう、解説記事では転んで怪我をして動けなくなると認知症になる可能性が上がるのではないかという独自の考察をしていた。転ぶことを強調したいがために解説記事では階段登りを登山と訳したのかもしれない。あるいは単にclimbingだけを見て続くstairsを見落としたために登山と訳したのかもしれない。

階段登りが認知症と相関する理由に対する別の視点を私は提供しよう。相関では因果関係を正しく導けないことがあると指摘したい。

相関と因果関係の違いを示す分かりやすい例を挙げよう。気温とTシャツを着ている人の割合を調べると正の相関がある。だからと言って「Tシャツを着る人が増えたから気温が上がった」訳ではない。「気温が上がったからTシャツを着る人が増えた」と解釈するのが正しい。どちらが原因でどちらが結果かは相関を調べるだけでは分からず、別の調査が必要だ。Tシャツの例だとTシャツを強制的にたくさんの人に着せて気温を測ればTシャツに気温を変える力がないことが証明できる。

先ほどの研究結果を「登山(階段登り)をすると認知症になる可能性が上がる」と解釈するのは虚偽の原因の誤謬かもしれない。「認知症になりやすい人が登山を好む」が正しい解釈の可能性がある。認知症になるような人は常日頃からものを考えないから、年をとってから登山を始めるという愚かなことを選んでしまう。真の登山好きなら若い頃に登っている。年をとってからの登山は身体に強い負荷をかけて健康に悪いし、怪我をする可能性がある愚かな行為だ。年をとってからわざわざ身体に悪い登山を始めるということは、頭が悪いことの証左である。頭が悪い人ほど認知症になりやすいことは既存研究[1][2]により確からしいことが判明している。その結果、登山をすると認知症になりやすいように見える。これはあくまで私見であり、解説記事が指摘したように登山は怪我をしやすいから、怪我の後動けなくなって認知症になるという機序かもしれない。自転車も認知症増加と相関があることから、怪我原因説の方がもっともらしい。

社交ダンスでは新しいステップを学ぶのは記憶力を使うし、身体を思い通りに制御するにも頭を使うので、認知症の予防に良いと言うのはよく分かる。水泳もマスターズレベルで練習している場合は、泳ぎ方の試行錯誤にとても頭を使うし、身体を思い通りの制御するのも頭を使うので認知症の予防に良いのはこれもよく分かる。両者は頭の使い方が似ているのに社交ダンスの方が圧倒的に認知症予防に効果的なのは、おそらく社交ダンスは二人で踊るからだろうと思う。相手に合わせる、相手をリードするという作業はひとりで身体を動かすときよりもさらに頭を使うからだ。

水泳であっても、向上心なくただ長く泳いでいたり、プールで長く歩いていたりするだけでは頭を使わないから、それだと認知症予防には役立たない。

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