現在のインフレ(世界も日本も)の要因として本書で挙げているのは
- 密な職場からの離職による供給減少
- 密を嫌うためサービス消費からモノ消費へ移行した結果、モノの供給不足
- 脱グローバル化による供給不足と供給コスト増大
だ。どれも以前から言われていたことだが、1.と2.はコロナが終息すれば収まると思われていたものだ。密への恐怖は今後もかなりの人に残るという事実が本書を読んだ新たな知見だった。
本書から得られた意外な知見は第2章と第3章で述べられている経済学者のインフレ恐怖の前提だ。経済学というのはインフレへの対抗策として生まれてきたもので、とにかくインフレを制御するというのが経済学の最大の目的らしい。私は経済学を学んだが、このインフレへの怖れが全くないものだから「インフレさえ気にしなければ、この理論なんてどうでもいいじゃないか」とたいていの理論を軽視してきた。経済学を修めるためにはまず「インフレ怖い」を身体にしみこませないといけないのだ。これが実感できないから、私は既存の経済理論を軽視し、経済学者はバカばかりと言ってはばからなかったのだ。それが理解できた今となっても、私はインフレは怖くない(ジンバブエのような数兆倍のインフレでも平気)ので、私は永遠に経済学者の視点に立てない。その辺りの乖離が納得できたもの本書を読んで良かった点だ。
経済学者が全員「インフレ死ぬほど怖い」の人種であることはもっと早く気付くべきだったが、どんな経済学の書籍にも論文にも「インフレ死ぬほど怖い」とまえがきに書いてないのでこれまで気付かなかったのだ。そして極めて私的な理由は、私が12歳の頃からお金をすごく稼いでいて、家族は質素に暮らしているのに、自分だけ産油国の王族のような贅沢をしていたのもインフレ怖くない(お金は必要ならいくらでも稼げる)につながった。
第4章では日本だけの特殊事情についてわかりやすく書かれていて、今回の黒船的なインフレが、日本をスタグフレーションのどん底に葬りさるか、諸外国のように賃金が少しずつ上がってゆく普通の経済に戻れるかの分かれ道であると述べられている。まさにその通りだと思う。日本は昔から外圧がないと変われなかった。渡辺さんが言うように、今回のインフレを奇貨として未来を良い方向へ変えるきっかけとしたいものだ。
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