10年物国債の金利は長期金利と呼ばれる。その目標金利はずっと0%だった。今も目標金利は0%で変わってはいない。目標金利の許容変動幅というものがあって、これまでは±0.25%だったが、今日の日銀の金融政策決定会合で±0.5%への拡大を決めた。国債が売られたり買われたりして金利が変動した場合に、この許容変動幅に収まるように日銀が国債を買ったり売ったりする。±0.5%は買ったり売ったりの目安となる数字だ。
日本経済は今後落ち目になるだろうと思う人が世界中にいて、それなら日本の国債は価値がなくなるから売ってしまえという流れが最近続いていた。国債は売られると値段が下がるが、満期時にもらえる金額は額面通りで変わらないから、値段が下がると国債の金利が上がったことになる。これまで目標金利の0%に対する許容変動幅が±0.25%だったので上限が0.25%で、下限が-0.25%だった。国債が売りこまれて値下がりすると金利が上昇して上限の0.25%を超えそうになっていた。その度に日銀が国債の買い入れをして国債価格を買い支えていた。日銀保有の国債は増える一方だ。昨日、日銀保有の国債割合が50%を超えたというのがニュースになっていたくらいだ。変動幅を±0.5%に拡大すれば、国債が値下がりしても金利が0.5%に上昇するまでは日銀は国債を買い支えなくてよいことになる。今日の報道の後も国債を売る人がたくさんいて価格が下がり金利はあっという間に0.25%から0.46%になった。まだ0.5%には届いていないから日銀は国債を買い支えなくてよいが、早晩0.5%になってしまうだろう。
銀行預金金利や貸し出し金利は基本的に国債の金利に連動して決まる。なぜなら国債の金利が0.46%のときに銀行預金金利が0.1%だったら銀行にお金を預けるより国債買った方がお得だから銀行預金が減る。それだと銀行が困るので預金金利を上げるからだ。国債金利と全く同じにはならないが、預金金利や貸し出し金利は国債の金利に連動して上がったり下がったりする。
今日、国債の金利が上がったので今後は貸し出し金利が上がるだろう。資金を借りている企業は支払い利息が増える。今後は借りる金額を縮小しないといけないだろう。借り入れがゼロの企業は珍しく、普通の企業はいくばくかの借り入れをしている。というか、お金を借りて設備投資と人的投資をしないと、企業はつぶれてしまう。なぜ設備投資が必要なのかを説明すると長くなるので省略するが、資本主義の継続性について解説した経済学の教科書に書いてあるので参照されたい。今後は企業が借り入れをしにくくなるから、企業の体力が落ちてつぶれてしまう企業も増えるだろう。ゾンビ企業はつぶれてもよいが、ちゃんとした企業もつぶれてしまうのが問題だ。つぶれなくても設備投資と人的投資をしないと生産性が上がらないから、社員の給与は上がらない。これは労働者のためには良くないことで、日本全体のためにも良くないことだ。だから日銀はゼロ金利政策を長いこと続けてきたのだ。ゼロ金利政策を止めてよいときは、企業が儲かって労働者の給与が上がったとき、つまり景気がよくなったときだ。まだその時期ではない。
ではなぜ、今金利を上げるようなことをしたのか。それは財務省と政治家から圧力がかかったからだろう。頭の悪い人たちは上記のような簡単な経済の仕組みが分かっておらず、日本の金利が低いから円安になっていてそれで輸入品価格が上がって困っている、だから日本の金利を上げれば全て解決すると思い込んでいる。そのように考える人が多数派だから票を得たい政治家は金利を上げようとする。財務省の官僚は経済学の基本を勉強しないというか、自分では勉強した気になっていて、間違った知識を持っているにもかかわらず直そうとしないので、日本が損をする方向へ全力で政策を動かそうとしている。日銀は金利を上げたら国民が不幸になると知っているからこれまで上げようとしなかったが、財務省と政治家からの圧力に耐えきれず今日の方針変更となった。
しかし、変更したのは許容変動幅だけで目標金利は0%のまま変えなかった。これは日銀の良心からのことだろう。おそらく黒田さんはガリレオ・ガリレイの気分だと思う。「それでも地球は動いている(これが真実なのに)」と。
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