2024年3月22日金曜日

食塩の摂り過ぎが健康に悪いかどうかはまだわからない

ナトリウム(要するに食塩)を摂り過ぎても健康に悪影響を及ぼすとは限らないという研究論文がいくつか出てきている。食塩の摂り過ぎが健康に悪いという過去の研究結果は実験方法と評価方法が信頼できないものがかなりある。それらの実験ではナトリウムの摂取量だけを変えて他の条件は同一にして比べているのだが、他の条件を同一にするのがとても難しい。他の条件を同一にできなければ、ナトリウムの量が実験結果に影響したのか、他の条件の差が実験結果に影響したのか判定できない。また、被験者をたくさん集めるのも難しい。被験者が10人では、実験結果は個人差である可能性が高く信頼できない。かと言って被験者を何万人も集めると、先ほど述べた他の条件を同一にするという処置が非常に難しくなり、そのことが原因で実験結果を信頼できなくなる。

この辺りの大変な事情を俯瞰的に述べた論文もあってなかなか興味深い。医学者と心理学者と社会学者には気の毒な話なのだが、人間を対象にした実験は本当に難しい。医学論文や心理学論文や社会学論文では、実験方法や評価方法を厳しい目でみると査読に通った論文のうち信用できる結論を出しているのは百にひとつと言っても言い過ぎではない。

医学特に西洋医学の研究にもうひとつ大きな壁として立ち塞がるのが個人差だ。人間の個人差は大きい。身長150cmの人もいるし200cmの人もいる。その間をとって175cmの人がいちばん普通でよいということはできない。同じことは血圧にも体重にも言える。たくさんの健康な人の血圧の平均値を計算したとしてもその平均値に近い状態が誰にとってもより健康であるとは言えない。高い方の血圧が180mmHgがいちばん調子がよく、それより低くなると不健康になる人だっている。そんな人に血圧を下げる処置を施したら健康を損ねて早死にしてしまうかもしれない。

個人差の存在は事実なのだが、個人差を言い出すと西洋医学の医療行為はかなり難しくなるので、わかっている人も黙っている。個人差がある状態でも西洋医学がそこそこ役に立つのは病原菌に対する対処の分野や外科手術の分野だ。

病原菌や悪いウイルス(世の中に存在するほとんどのウイルスは無害だ)は人体内に少なければ少ない方が良いということは言ってもよい。これにも実は個人差があって、普通だったら死ぬだろという量のウイルスが人体内にあってもピンピンしている人もいるが、悪いウイルスの量が多いほど健康という人はいないので悪いウイルスは少ない方が誰にとってもうれしいと言ってもよい。うーん正確にはやっぱりそうも言い切れない。例えば腸内細菌は悪玉も善玉もいるが、全部いなくなると人体は困る。病原菌だけ減らして、身体の中にいて欲しい細菌は残すような処置は難しい。病原菌を殺す薬を大量に投与したら身体に必要な細菌まで殺してしまって却って不健康になったなんてことはよく起こる。悪い病原菌やウイルスも完全にいなくなると免疫が作られないので困る。彼らがどれくらいいるのを許すのがちょうどよいかは個人差で変わる。常に個人差は無視できず、西洋医学にとって個人差は学問の存続に関わるクリティカルな因子だ。

なので西洋医学はメスを使った外科手術以外は未完成な学問である。西洋医学が個人差を克服できるのは今後さらに数十年か数百年は必要だろう。ここでは詳しく述べないが中国を起源とする東洋医学は個人差を考慮しているので西洋医学よりは個人差に対応できる。東洋医学には西洋医学に及ばない点もあり、東洋医学も未完成な学問であることには変わりない。

個人差を克服して健康を維持するためには、自己観察力を高めるしかない。これをやったら自分は調子がよいとか悪いとかをよく観察して自分にとってよいことを生涯を通して学ぶ。獣は意識せずにそれができている。ペットが何かをしきりに欲しがるときはそれを食べると体調が回復するときだ。私も気絶しそうになったときに朦朧とした状態であんぱんを理由もなく求めてむさぼり食ったことがあるが、獣と同じ理由だろう。そのときは朦朧としていて何が起こっているかわからなかったが、後で考えると低血糖状態だったのだ。とつぜんバナナを無性に食べたくなることもあるがそれはバナナに含まれるミネラルのどれかが必要なときだろうし、柑橘類を無性に食べたくなるときは柑橘類に含まれるビタミンのどれかが必要だという身体からのサインだろう。先入観を持たずに自分に正直に向き合えば、自分に関してだけは個人差を克服できる知恵が生まれる。

食塩の摂り過ぎが健康に悪いかどうかの答も個人差を考慮すればわかる。「人それぞれです」で終わりだ。食塩を摂り過ぎても平気な体質の人が減塩にこだわって、食事の塩を減らして不味くしてそのために必要な栄養を摂れないのだとしたら、減塩は健康に悪いと言える。食塩を摂り過ぎると健康に悪い体質の人もいる。その場合は血管系の心配より腎臓の心配をした方が良い人が多いと思うが、なぜかみんな血管系の心配をしている。どこが悪くなるかも人それぞれだ。

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