2020年12月20日日曜日

松本徹三 AIが神になる日

松本徹三さんは昭和14年生まれ。まちがいなくおじいさんだ。しかし、3年前に出版されたこの本は2020年の今読んでも誤りがないように思える。最新の技術と最新の研究に目を通して、それを正しく理解している。しかも、この人の本職は人工知能研究者ではなくビジネスマンだ。なんという才能。私もこんな風に年をとりたい。誤りがないと思うと書いたが、最後の方に提案されているAIの基本原則(この本の最重要部分だと思う)については、これで必要十分であると判断することができなかった。正しいAIの基本原則を定義することが果たして人間にできるのかと思い、しかしAIを作る以上誰かは考えなくてはならずそれが人間の役目だとも思った。

この本は最初から最後まで読みがいのある内容なのだが、まずすごいと思うのは17ページ。こう書いてある。「今から28年後の2045年にシンギュラリティーが実現するという説もありますが、私はそこまで大胆な予言はとてもできません。この予測は、コンピューターの推論能力のみに焦点が向けられすぎており、その他の多くのファクターがあまり顧みられていないような気がします。」と。私は2045年のシンギュラリティーに間に合うようにSNNの研究をしているが、推論能力以外のその他のファクターである思いつきを生物の脳がどのように実現しているかがまだ分からない。ここで言っている思いつきとは、ルールの外に踏み出す発見のことで、囲碁で新しい定石を発見するのはそれではなく、盤の外に石を打つみたいな発見を指す。その他のファクターの中では思いつきなんて初歩に過ぎず、意識や感情の方が高度だが、初歩の思いつきすら手がかりがない。思いつきはシナプス電流の雑音由来のものではないかと予想しているが、確かめられていない。そもそもSNNがシンギュラリティにつながる最短経路であることに自信がなくなっている。こんなことでは2045年にシンギュラリティは無理かもしれないと思い始めていた。そんな状況を2017年におそらく正しい理由で判断できているというのがすごい。

無心無欲のAIに政治をまかせればうまく行くというのは私も信じていて、そのためにSNNの研究をしているのだが、実際それが完成したときどうやってAIへの政治権限移行を行うかはずっと悩んでいる。「AIは無欲で公正なので信じましょう」と言い出してもすぐには誰も信じないだろう。AI党を作って、その所属議員(人間だ)が国会で過半数を取るまで20年以上かかるんじゃないかな。過半数を取ったAI党が、機械のAIへの政治権限移行を行おうとしても、野党となっても利権を握っている議員がそれを易々と譲り渡すはずはなくAI政治は憲法違反だとかなんとか言って抵抗するだろう。その抵抗を抑えて、おそらく司法も巻き込むことになって、権限移行が完了するのにさらに何年かかるだろうか。国によっては革命が必要かもしれない。したがってAIが政治を行うのは、その技術が完成してから何十年も後になると思っていた。この本の中盤には宗教に関する解説がかなりの分量書かれていて、AIについて知りたいと思って読み進めている読者はとまどうかもしれない。しかし、私はすぐにこの解説が必要な理由が分かった。AIへの政治権限移行を実現するために、宗教を信じる人の意識の理解が必要だからだ。その理解を活用すれば、革命ほどの荒療治の必要なしにAIへの政治権限移行が成るかもしれない。この辺りもなるほどと思えた。

文章は読みやすく、読み物としても面白い。AIに興味がなくても誰にもお薦めの本だ。

--以下どうでもよいこと---

宗教の解説の中に古代ギリシャの哲学者エピクロスが「もし神が全能で、力も意志もあるのなら、悪はどこから来るか?」と言っていたと書いてあって、あれれ?と思った。同じ意味の言葉を私は子供のころに言っていて、それは自分のオリジナルだと特に調べもせず思い込んでいた。全智全能の神がいない証明として他人に説明するとき使っていた言葉だ。証明したのだから調べる必要もなかった。社会におけるひどい事件をいくつも見れば、子供でも誰でもこう思うよねえ。

0 件のコメント:

コメントを投稿