ITM(In The Money)になっていたFord株のコールオプションが権利行使されたとの約定通知が届いた。オプションの満期は来年1月だ。満期前に権利行使できるのはアメリカンタイプのオプションの特徴だが、これまでITMになったオプションを保有したことはあっても、満期前に権利行使されたことはなかった。今回が初めてだ。珍しい経験をした。
アメリカンタイプのオプションが満期前に権利行使される場合、オプションの売り手と買い手の対応付けはランダムになされる。私以外にもオプションの売り手はいるのだが、今回はたまたま私のオプションが選ばれたということだ。
2025年1月にFord株を9.84ドルで1000株購入した。同時に2026年1月満期の権利行使価格11.67ドルのコールオプションを0.54ドルで1000株分売った。カバードコールという手法だ。現在のFord株の価格は13.21ドルなので権利行使価格11.67ドルのコールオプションはITMになってしまっていた。コールオプションの価格は1.74ドルまで上がっていた。
今日届いた約定通知は100株分のコールオプションが権利行使されて、手持ちの1000株のうち100株が11.67ドルで強制的に売られてしまったよという内容だ。買い手がいくらでオプションを買っていたのかはわからないが、もし0.54ドルで買っていたのなら、(13.21-11.67-0.54) × 100 = 100ドル利益が出たことになる。私は本来13.21ドルで売れる株を11.67ドルで強制的に売る羽目になったのだが、事前に0.54ドルのオプションプレミアムを受け取っていたので、前述と同じ計算式で100ドル損したことになる。
カバードコール視点で考えよう。原資産のFord株は9.84ドルで購入したものだから、そこを基準に考えると (11.67-9.84+0.54) × 100 = 237ドルの利益を私は得た。オプションの売りは損失無限大のハイリスク取引だが、現物資産保有と組み合わせることによってハイリスクをローリスクに変換するのがカバードコールの特徴だ。その代わり、利益無限大になるはずの現物資産保有のハイリターンの可能性がローリターンに変換されてしまう。本来なら13.21ドルで売れて (13.21-9.84) × 100 = 337ドルの利益となるはずだが、100ドル少ない237ドルしかもらえなかったことがローリターンへの変換結果だ。
ここで不思議だと気づいた人は賢明だ。そう、今回のオプションの買い手は権利行使しないで普通に手持ちのオプションを売った方が儲かっていたのだ。今のオプション価格は1.74ドルだから、普通に売れば (1.74-0.54) × 100 = 120ドル儲かるのだ。この関係は買い手がコールオプションを0.54ドル以外の価格で買っていても当てはまり、オプション購入価格によらず権利行使を選んだ方が20ドル儲けが少なくなる。20ドル儲けが減るのにオプションの買い手が権利行使を選んだということは、Ford株を所有したかっただけかもしれない。そうだとしても、オプションを売って120ドルもらって、それも使ってFord株を時価の13.21ドルで買った方が11.67ドルで買うよりは得なのだが(権利行使して11.67ドルで買った場合の実際の購入コストはオプションプレミアムの0.54ドルを加えた12.21ドルであることに注意)。
権利行使の方が損という今回の状況は実は一般的で、たいていの場合はそうなる。そのためにアメリカンタイプのオプションと言えども満期前に権利行使されるのは珍しい事象だ。
(後記)もしやと思って調べたら11/7はFord株の配当日だった。約定通知が来たのが米国時間の11/8の夜だったので、配当取得に間に合ったのかどうかはわからない。Ford株の配当は100株当たり15ドルだ。配当がもらえていたのなら、20ドルの損が5ドルの損で済む。そうなら権利行使したことはそれほど不合理ではない。